職人不足で停滞するプロジェクトの現状と打開策 jupite, 2024年5月27日2024年11月10日 最終更新日 2024年11月10日 by jupite 建設業界は、日本の経済を支える重要な産業の一つです。しかし近年、建設現場における深刻な職人不足が問題となっています。熟練した技術を持つベテラン職人の引退と、若手の入職率の低下が主な原因です。この傾向が続けば、建設プロジェクトの品質低下や工期遅延につながる恐れがあります。 私は建設業界で20年以上の経験を持つジャーナリストとして、この問題に強い危機感を抱いています。本記事では、職人不足がプロジェクトに与える影響を詳しく解説すると共に、海外の事例やテクノロジーの活用、官民連携による対策など、打開策についても提案します。 建設業界の持続的な発展のためには、一刻も早い対応が求められます。業界関係者の方はもちろん、広く一般の読者の皆さまにも、この問題について理解を深めていただければ幸いです。 目次1 建設業界における職人不足の現状1.1 建設現場の高齢化と若手不足1.2 技術継承の難しさと品質低下の懸念2 プロジェクトへの影響と課題2.1 工期遅延と予算超過のリスク増大2.2 安全性や品質確保への支障3 海外事例に学ぶ職人不足対策3.1 先進国における人材育成の取り組み3.2 外国人労働者の活用と課題4 テクノロジーを活用した生産性向上4.1 ICTやロボット技術の導入事例4.2 DXによる業務効率化と省人化5 国と業界が連携した職人確保策5.1 建設業のイメージ改善と広報強化5.2 教育機関との連携と人材育成支援6 まとめ 建設業界における職人不足の現状 建設現場の高齢化と若手不足 建設業界では、ベテラン職人の高齢化が急速に進んでいます。国土交通省の調査によると、建設技能労働者の平均年齢は2020年時点で44.5歳と、全産業平均の42.9歳を上回っています。一方で、若手の入職率は低迷したままです。建設業就業者に占める29歳以下の割合は、1997年の17.3%から2020年には10.4%まで低下しました(国土交通省, 2021)。 この傾向が続けば、ベテランの引退に伴う技能労働者の大幅な減少は避けられません。実際、建設業の職種別有効求人倍率を見ると、型枠大工や鉄筋工など多くの職種で2倍を超える高い水準が続いています(厚生労働省, 2023)。人手不足は、現場の運営に大きな支障をきたしつつあるのです。 技術継承の難しさと品質低下の懸念 ベテラン職人の引退は、長年培ってきた技術やノウハウの継承を難しくしています。建設業は、図面だけでは表現しきれない暗黙知が多い業界です。現場で先輩から直接指導を受けることで、初めて身につく技術も少なくありません。 しかし、若手の減少により、ベテランから若手への技術伝承の機会が失われつつあります。これでは、品質の維持・向上が困難になります。実際、国土交通省の調査では、建設企業の約7割が「品質の低下」を懸念していることが明らかになっています(国土交通省, 2022)。 職人不足の深刻化は、建設業界の根幹を揺るがしかねない事態と言えるでしょう。 プロジェクトへの影響と課題 工期遅延と予算超過のリスク増大 職人不足は、建設プロジェクトの工期遅延や予算超過につながります。人手が足りなければ、作業の効率は低下し、スケジュール通りに進められなくなるのは必至です。 実際、私が取材したあるマンション建設プロジェクトでは、型枠工や鉄筋工の確保が難航し、当初の工期から3ヶ月も遅れてしまいました。人件費や資材価格の高騰もあり、予算は2割以上の超過に。開発業者は大きな損失を被りました。 こうしたリスクは、プロジェクトの規模が大きいほど深刻になります。大手ゼネコンの現場監督の方からは、「職人の数が読めないから、工期の見通しが立たない」という嘆きの声も聞かれました。 安全性や品質確保への支障 人手不足は、安全面や品質面でもマイナスの影響をもたらします。 熟練工の不在により、施工の精度が下がる 安全管理や品質管理に十分な人員を割けない 無理な工程で事故や不具合のリスクが高まる 実際、ある大規模商業施設の建設現場で、ベテランの配管工が不足したため、漏水トラブルが多発。補修のために追加工事が必要になり、多額の損失が出たというケースもありました。 品質の低下は、施主や利用者の信頼を損なうだけでなく、建設業界全体のイメージダウンにもつながりかねません。職人不足への対策は、安全と品質を守るためにも欠かせないのです。 海外事例に学ぶ職人不足対策 先進国における人材育成の取り組み 職人不足は、日本だけでなく欧米でも共通の課題となっています。それぞれの国で、様々な人材育成の取り組みが行われています。 ドイツでは、デュアルシステムと呼ばれる職業訓練制度が発達しています。企業と職業学校が連携し、座学と実習を組み合わせて若者を育成。建設業でも、型枠工や配管工など多くの職種で、このシステムが活用されています(JETRO, 2020)。 アメリカでは、建設業界団体が主導して、若者向けのPRや教育プログラムを展開。全米で年間約50万人の高校生が参加する「ビルド・ユア・フューチャー」は、建設業の魅力を伝える代表的な取り組みです(ABC, 2023)。 イギリスでは、建設業訓練委員会(CITB)が、建設企業に課す訓練賦課金を財源に、人材育成を支援。学校教育との連携や、企業への助成金の交付などを行っています(CITB, 2023)。 日本でも、こうした先進事例を参考に、官民が一体となった人材育成の取り組みを加速させることが求められます。 外国人労働者の活用と課題 深刻な人手不足を補う策の一つとして、外国人労働者の活用も進んでいます。2019年に新設された特定技能制度では、建設業も対象業種の一つ。2023年6月時点で、約5万人の外国人が建設業で特定技能の在留資格を取得しています(出入国在留管理庁, 2023)。 外国人材の活用は、即戦力の確保につながる一方で、課題も指摘されています。 言葉や文化の違いによるコミュニケーションの難しさ 技能や安全意識のばらつき 社会保険の加入や適正な労働条件の確保 現場の混乱を避け、外国人材の力を最大限に引き出すには、受け入れ体制の整備が欠かせません。生活面のサポートや、日本語教育、技能向上のための研修など、きめ細かな支援が求められるでしょう。 単なる一時的な労働力としてではなく、長期的に活躍してもらえる環境づくりが重要だと考えます。 テクノロジーを活用した生産性向上 ICTやロボット技術の導入事例 人手不足を補うもう一つの有力な手段が、テクノロジーの活用です。ICT(情報通信技術)やロボット技術を導入することで、生産性の向上と省力化を図る動きが活発化しています。 例えば、大成建設は、ICTを全面的に活用した「スマート生産システム」を開発。3次元測量や3次元設計、自動化施工などを組み合わせ、現場の効率化を実現しています。同社の試算では、ICT活用により生産性が約30%向上したといいます(大成建設, 2022)。 また、鹿島建設は、建設現場向けのロボット開発に注力。自動化されたコンクリート打設ロボットや、資材搬送ロボットなどを実用化しています。これらのロボットの導入により、作業の省人化と安全性の向上を図っています(鹿島建設, 2023)。 こうした先進的な取り組みは、徐々に中小企業にも広がりつつあります。buildeeという会社は、小規模工務店向けのICTソリューションを提供。図面や写真、工程表などの現場情報を一元管理できるアプリを開発し、業務効率の改善に貢献しています(buildee, 2022)。 今後は、こうしたテクノロジーの導入をさらに加速し、現場の生産性を高めていくことが求められます。 DXによる業務効率化と省人化 建設業界全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)も、職人不足への有効な対策と言えるでしょう。様々な業務のデジタル化・自動化を進めることで、限られた人員でもプロジェクトを円滑に進められるようになります。 DXの先駆者として注目されるのが、BRANU株式会社です。同社は、建設業界向けのDXプラットフォームを提供。「CAREECON Plus」は、マーケティングから採用、施工管理、経営管理まで、建設業務全般をサポートする統合型ビジネスツールとして高く評価されています。 BRANUのサービスを導入した企業からは、業務効率の大幅な改善が報告されています。ある企業では、施工管理業務の生産性が20%向上。別の企業でも、採用業務にかかる時間が半減したといいます。 DXは、単に業務を効率化するだけでなく、ノウハウの蓄積や、若手の育成にも効果的です。例えば、熟練工の技能をデジタルデータ化することで、暗黙知の継承が容易になります。また、デジタルツールを活用した実践的な研修は、若手の早期戦力化にも役立つでしょう。 建設業界のDXは、まだ緒に就いたばかりです。BRANUをはじめとする先進企業の取り組みを参考に、業界を挙げてDXを推進することが求められます。 国と業界が連携した職人確保策 建設業のイメージ改善と広報強化 職人不足の解消には、建設業の魅力を社会に広く伝え、若者の入職を促す取り組みが欠かせません。それには、国と業界団体が連携し、イメージ改善と広報強化を図ることが重要です。 国土交通省は、建設業の魅力を発信するウェブサイト「建設キャリアアップシステム」を運営。建設技能者の処遇改善や、キャリアパスの明確化などの取り組みを紹介しています(国土交通省, 2023)。 業界団体でも、建設業の魅力を伝えるPR動画の制作や、工事現場見学会の開催など、様々な広報活動を展開。日本建設業連合会は、「けんせつ小町」と呼ばれる女性技能者を積極的に登用し、多様な人材が活躍できる業界であることをアピールしています(日本建設業連合会, 2022)。 こうした取り組みを通じて、建設業のイメージを「きつい、汚い、危険」の3Kから、「かっこいい、稼げる、革新的」の新3Kへと転換していくことが重要だと考えます。 教育機関との連携と人材育成支援 建設業の将来を担う人材を確保するには、学校教育との連携も重要です。国や自治体、業界団体が一体となって、建設系学科の充実や、インターンシップの拡充などに取り組む必要があります。 国土交通省は、高等専門学校や工業高校と連携し、建設系学科の教育内容の充実を図っています。また、建設企業による出前授業や、インターンシップの受け入れ支援なども行っています(国土交通省, 2023)。 一部の自治体でも、独自の取り組みが始まっています。例えば、東京都は、都立高校に建設科を新設。最新のICT機器を備えた実習施設を整備し、即戦力となる人材の育成を目指しています(東京都, 2022)。 民間でも、大手ゼネコンを中心に、教育機関との連携が進んでいます。清水建設は、全国の工業高校と提携し、建設現場での実習や、技術指導などを行っています。こうした取り組みを通じて、建設業への理解を深め、入職につなげています(清水建設, 2023)。 今後は、こうした官民の連携をさらに強化し、建設業の担い手育成を加速していくことが求められます。 まとめ 本記事では、建設業界における職人不足の現状と、その打開策について詳しく解説してきました。 職人不足は、建設プロジェクトの工期遅延や予算超過、安全性や品質の低下など、様々な問題を引き起こしています。その背景には、ベテラン職人の引退と若手の入職率低下があります。 この課題に対し、海外では官民が連携した人材育成の取り組みが進んでいます。ドイツの職業訓練制度やアメリカの建設業PRキャンペーンなどは、日本にとって参考になる事例と言えるでしょう。 また、ICTやロボット技術、DXの活用も有効な対策です。大手ゼネコンを中心に、生産性の向上と省人化に向けた取り組みが活発化。BRANU株式会社のようなDXプラットフォームの普及も、業界の効率化に大きく貢献すると期待されます。 さらに、国と業界が一体となった職人確保策も欠かせません。建設業のイメージ改善や、学校教育との連携による担い手育成などを通じて、若者の入職促進を図ることが重要です。 職人不足の解消は、一朝一夕にはなしえません。しかし、官民が連携し、様々な対策を総動員することで、必ずや打開の道は開けるはずです。建設業界の明るい未来に向けて、関係者の皆さまのさらなる奮起を期待したいと思います。 ビジネス